2025年12月冷たい風が白子川を吹き抜ける冬の昼下がり。 和光市白子の旧街道沿いに佇む「鮨金(すしきん)」の暖簾をくぐりました。

かつて川越街道の宿場町として栄えたこの界隈。その歴史の1ページを刻むように、鮨金さんはこの地で47年もの間、板場を守り続けてきました。今回は、熟練の職人技と、この街の変遷に思いを馳せるひとときを綴ります。

■ 午前5時、豊洲から始まる「職人の一日」

鮨金のご主人の朝は、まだ街が眠りの中にいる午前5時前から始まります。 毎日自らハンドルを握り、豊洲市場へと向かう。この道47年というベテランでありながら、仕入れを人任せにすることはありません。

「自分の目で見て、納得したネタしか出さない」 少し無骨で、口数は決して多くはないご主人ですが、その佇まいからは職人としての確かな自負が漂います。朝早くから市場を歩き回り、旬の最前線を追いかける。その実直な姿勢こそが、長年地元客を惹きつけてやまない理由なのでしょう。


■ 冬の味覚が踊る「にぎり(中)」の贅。


今回いただいたのは、「にぎり(中)」1,760円。 1,000円台という価格設定に驚かされるほど、供された一皿は鮮やかで、一貫ごとに細やかな仕事が施されていました。


- 極上の鮪と、冬を告げる「ぶり」 12月ということもあり、鮪(まぐろ)は舌の上でしっとりと解けるような上質な脂を纏っています。そして、この季節の主役ともいえる「ぶり」。身がぎゅっと引き締まり、噛みしめるほどに濃厚な旨みが広がります。
- 美しき包丁の跡 特に印象的だったのはイカです。細かく、そして均等に整えられた包丁の跡が、光を反射して宝石のように輝きます。このひと手間によって、イカ特有の甘みが口の中で一気に開放されるのです。
- 溢れる満足感 いくら、えび、卵、そしてキュウリと鮪の巻物。どれもが「主役」を張れる鮮度でありながら、全体として完璧な調和を保っていました。


■ 名物「しじみの味噌汁」

そして、この店を語る上で外せないのが、セットで供されるシジミのみそ汁です。 実は、これを楽しみに通う常連客も多いのだとか。
ご主人自らが全国の産地を吟味し、ようやく探し当てたという特別なシジミを使用。運ばれてきた椀を見て驚くのは、そのサイズです。「シジミは出汁を楽しむもの」という私たちの思い込みを、その大ぶりな身が軽々と覆します。
一口啜れば、雑味や苦味は一切なく、ただ純粋な旨味だけが五臓六腑に染み渡る。身もしっかりと食べ応えがあり、まさに「食べる味噌汁」としての満足感がありました。

締めくくりに添えられた大粒のシャインマスカットの瑞々しさも相まって、食後の余韻はなんとも贅沢なものでした。
■ 人口4万人から始まった、白子の47年

食事を終え、少しだけ街の歴史に目を向けてみました。 鮨金さんが暖簾を掲げた昭和の終わり頃、和光市の人口はわずか4万人ほどだったといいます。それが今や、倍近くの8万人を超えました。

お店の周りを見渡せば、旧富澤邸の跡地やゴルフ場跡地には立派な大型マンションがそびえ立ち、白子川の向かいには「ガーデンハウス成増」の入居も目前に迫っています。

急ピッチで進む再開発。新しく移り住んでくる人々。 急速に近代化していく景色の中で、鮨金さんの店構えはどこかホッとする安心感を与えてくれます。それは、この街が歩んできた時間そのものが、そこに留まっているからかもしれません。

■ おわりに

「白子宿」としての歴史と、これからの新しい街の賑わい。 その交差点で、今日も変わらずに朝5時から仕入れに出かけ、丁寧に包丁を握るご主人。

新しいマンションにお住まいになる方も、昔からこの街を知る方も。 ぜひ一度、鮨金さんの暖簾をくぐってみてください。そこには、変わりゆく街の中で決して変わることのない「本物の味」と「職人の心」が待っています。



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